誰にでも言える秘密の話

東京 大学生 文学部 20歳 男 短歌、エッセイ、小説、詩

鶴巻町の恋

最近、引越しのために物件を探している。

 

本来なら9月くらいに終わらせなければならないものをどうやら今やっているらしいのだが、やり方が気に食わない。

 

自分の希望を押していくと、その条件の物件がズラリと並ぶのだ。

 

 

この効率的なやり方がまるで婚活に来ている人が相手の条件をベラベラとまくし立てるかのような図々しさ、厚かましさを覚えてしまったのだ。

 

正直にいうと雨と風がしのげればどうでもいい。いざとなったら大学に住めばいいしそのつもりでもある。

 

一つだけ私に思想があるとするならば、家に住むというのはその周辺の「街」に住むということだ。その街に染まるということだ。その街のひとつの風景になるということだ。

 

上京してから2年が経とうとしている。新宿などの主要な街しか知らなかった私も様々な街の美しさを見出していた。

 

深夜の港区の海風の気持ちよさ、高田馬場の雑踏、歌舞伎町のアウトロー、神保町の静謐さ、高円寺のカルチャー、、、

 

しかし私が一番焦がれているのは早稲田鶴巻町であった。

 

少し歩いたら聞こえる神田川のせせらぎが好きだ。近くの喫茶店の雰囲気が好きだ。深夜の中央図書館の荘厳さが好きだ。煙草を吸って見上げるとある大隈講堂が好きだ。

 

この恋は決定的に私を定めているのかもしれない。

 

この恋が私をも吸収して、私も恋の一部になるかもしれない。