誰にでも言える秘密の話

東京 大学生 文学部 20歳 男 短歌、エッセイ、小説、詩

ポンペイ

引越しをする時に色々と買わなきゃいけないものというのが多くて煩わしい。

 

必要最低限の生活を心がけてきた2年間は物質社会の適合を無意識に避けようとしていてその結果、何を買おうかということすら思い浮かばない。困ったことだ。

 

一つ、置時計を買おうと思う。この置時計を買おうと思ったことは自分が時間というものに対して誰かに規制されない限りは基本的に無頓着であるということもそうだが、それ以上に中世ヨーロッパの農村は時計台が中心にあったということを思い出したからだ。それ以前の農民は太陽が出たら耕作を初め沈むと寝るようになる。それを時計が規定してくれたのだ。

 

いやそんな理由で置時計を買おうと思う人は少ないのは百も承知だが本心だから仕方がない。アナログな長針と短針がある時計がいい。出来ればカチッカチッと音のなるものを。

 

デジタルの時計は全くもって時計という物を簡略化してしまった。

 

時計とは止まってからが美しいのに。

 

アナログ式の時計はいつでも自分で時を止められるのだ。それは記録でもある。身内が死んだ時に時計を止める人もいる。自分はもうダメだと絶望の縁にいる時に時計を止める人もいるだろう。

 

それはポンペイのような美しさだ。

 

 

電子だか電波だかでコンマまで測れる世界において、時間に支配されている世界において、時計を時間を支配するために買うというのも一興だ。