誰にでも言える秘密の話

東京 大学生 文学部 20歳 男 短歌、エッセイ、小説、詩

スタバのあの子が眠っている間に考えていること

四谷のスターバックスコーヒーにいる。

 

特に用事は無い。2時間ほど時間を潰さなければならなくてフラフラと歩いていたらあったスタバに入り、残り一席となったところに滑り込んだところだ。

 

こういう時1人というのは便利だ。大学一年の時は授業終わりに1人で映画を見るのが好きであったが、どんなに唐突に映画館に入っても席は1つ空いているものだ。そして大抵どんな場所でも席っていうものは一席だけ空いている。

 

選択権のない席に座ると隣の女の子はどうやら高校生のようだ。制服に夏用のカーディガンを羽織り、学校で配布されたであろう数学の問題集をここ五分くらい解こうとしている。

 

というのもスタバの店内音楽と喧騒の居心地の良さに既に彼女の脳はノックアウトされたようで頭がメトロノームよりも正確に前後しているからなのだが。

 

ちょうどいい。彼女が眠りと格闘している間、また彼女が数学と向き合う準備ができるまでの間、私も何かを書きつけるとしよう。

 

最近傘について考えている。多分雨がちの日が続いているからだ。私は傘というものが嫌いで、というか外に出かける時に何かを持ち歩くのが苦手だ。だから一日中一人でいることが確定しているような日は雨に打たれて歩いている。

 

そうやって雨に打たれながら傘というものを観察している訳だが傘はテリトリーだと思う。半径35センチ直径すると70センチの円は全ての垂直に落ちる雨を遮断する。その絶対性が雨よりも、冷たい気がする。

 

宇宙由来の雨というものをご存知だろうか。宇宙から飛来する雪玉が解け、地球の雨に混じって地上に降り注ぐ雨のことを言う。まだ学問的な裏付けが取れていないが観測された事象だ。

 

私は、雨は天と地が接続する体験だと思う。その天は単に大気圏内に留まらず宇宙までを射程内に捉える。人間という地上に留まるしかない矮小な生き物が宇宙と接触できる稀有な体験だ。それを、その体験を拒絶する「傘を差す」という行為が、私は嫌いだ。

 

気がついたら横にいる女の子の頭は止まっていた。目は開き猫背になりながら数学の問題集に取り組んでいる。

 

いかにも結構、この文章を終えるに綺麗な幕切れである。

 

 

この時、ふと気がついた。四谷のスターバックスコーヒー。大勢の人がいる。大勢の人が傘を携えている。傘を持っていないのは私と彼女だけのようだ。

 

 

彼女も宇宙由来の雨を知っているのだろうか。