誰にでも言える秘密の話

東京 大学生 文学部 20歳 男 短歌、エッセイ、小説、詩

老衰

恥ずかしい話だが、春学期に小説を書こうとした。した、ということは完成することはなかったのだが。
タイトルは「老衰」
屈折した男の話を予定していた。
恋愛観の屈折した男の話だ。

その男は恋愛に性欲が混ざり込むのがどうしても許せなかった。恋愛は神聖なものでそこに自分本位の快楽なんて入り込む余地なんて存在しない筈だった。
その快楽に負けてしまう自分がとてつもなく嫌いであった。
しかし自分の生を止める度胸もなければパイプカットをする度胸もなかった。ただじっと自分の性欲が終焉する老衰をただ待っている男であった。
もしも老衰によって性欲が限りなく減退してその時に恋をしたらそれは純粋なる恋なのだろうか。
そもそも恋愛とは性欲の付属品に過ぎないのだろうか。

そんなことを書きたかった。
でも書けなかった。いつの間にか自分の将来をその場で書き出そうとしていたから。
書こうとした男は原稿用紙という鏡に写った自分であった。
原稿用紙に載った自分はどうしようもない醜男だった。

恐らく私はこれからの生涯、小説を書こうと試みるだろう。
自分の将来を原稿用紙で占おうとするだろう。
しかしながら自分の手で紡ぐ自分への宣告に私は耐えることができない。

フィクションだからと笑い飛ばせる強さが欲しかった。